私が整形外科医になり診察、治療を行い感じたこと、大学病院でも、小さな開業医でも、「腰痛」を訴える患者さんが意外に多く、長期間の治療を要する場合が多いため、患者さんは病気に対して、治療に対して、将来に対しての不安や疑問を持っている人が多いということでした。
従ってこのような患者さんに対して幾らかでも解答になればと思い以下に述べていきます。
腰が痛くなる原因は10や20ではありません。もっとたくさんあります。その中から主なものをあげますと、まず脊椎(骨)に原因があるもの、例えば脊椎分離症、辷り症、変形性背椎症、軟骨に原因があるもの、例えば椎間軟骨ヘルニア、筋肉や所謂筋が悪いもの、細菌感染による脊椎カリエス、更に婦人科や、胃や腸等の内臓に原因があるなど、数えればきりがありません。
このように原因がいろいろですから、その治療法も違ってくるわけです。従って正しい治療をうけるためには、正しい診断が必要なわけです。
「腰痛」の正しい診断は、患者さんの訴え及び状況、経過と、必要な検査の結果と、専門的な目で診察して総合的に行われるわけです。
従って患者さんの話すことが、正しい診断の上に、非常に重要な役割を持っているわけです。何時から、どうしてどんなふうに、症状がおこったか、又、今までにどんな治療をしたか、今日までの経過はどうであったか、を出来るだけくわしく、自分では関係ないと思うような小さなことがらでも、全て医師にお話しするようにしましょう。
A、薬物療法 | 薬には原因と同じように色々の種類のものがあります。主に痛みを抑えるもの、主に炎症を抑えるもの、主に神経にはたらくもの、主に血管にはたらくもの、主に筋肉にはたらくものなど、又ききめの出かたにも、即効性のもの、長期間服用してジワジワ効くものなどいろいろです。 医師はそれ等の薬を、副作用がなるべく出ないように、総合的な効きめをねらって投薬します。従がって患者さんは、定まった量を正しく服用しないと効果は出にくい場合があります。 |
B、理学療法 |
局所の神経や筋肉を、電気その他で刺激したり温めたりして、その炎症や刺激をやわらげ血行をよくし、症状をやわらげていくわけです。 従って連続して行う方が効果が現われ易いわけで、時々するのではあまり効果は期待できません。 |
C、索引療法 |
重りをつけてゆっくり引っぱる方法で、坐骨神経痛等で根刺戟症状のある患者さんに行うもので、腰の骨を引き伸ばそうというものではありません。従って無理矢理にグイグイ引っぱる程効果があるというものではなく、入院して一日に何時間もジワジワ引っぱるのが理想的です。 その結果、椎間軟骨ヘルニアが、自然にもとにもどり易い状態になったり、腰の神経や筋肉の安静により「痛みの為の筋肉の異常緊張→緊張の為の痛み」という悪循環をたち切るという役目も果たします。 |
D、運動療法 |
自動車の普及や色々な物のオートメーション化が進み、歩かなくてもよい、体(筋肉)を使わなくてもよいという非常に便利な世の中になりましたが、それに伴って運動不足を起こし易い時代になっています。 従って、足の筋肉・の力が弱くなり、その為の腰痛が多く見られるようになりました。 そのようなことから、プールでの運動・・ウォーキング・色々の体操療法等が盛んとなり、それぞれの効果をあげていますが、腰痛の原因によっては逆効果の場合もありますので注意が必要です。自分がやってみたい運動療法があったら来院された時に、私にお話下さい。 |
E、コルセット療法 |
腰の部分を外から保護してやるという治療法で、腰の骨が弱くなったり、分離症等のように腰の骨の安定性の悪い場合や、変形を矯正する場合に行います。 従ってコルセットを使用する患者さんは、原則として外歩きをする時、腰を曲げて仕事をする時等に特に必要で、寝るときははずします。 |
F、硬膜外 ブロック注射 |
脊椎の硬膜外腔に麻酔薬を注入する方法で、麻酔薬と同時に炎症を抑える働きが強いステロイドを一緒に注入する場合もあります。部位により腰椎硬膜外ブロックと仙椎硬膜外ブロックがあります。ブロックは一週間に一回を限度として行い、原則として入院患者さんに行います。 (2009.11改) |
G、手術療法 |
脊推分離症や、脊椎管狭窄症や椎間板ヘルニアの保存的療法で改善の見込みのないもの及び脊推の腫瘍などに手術を行います。医師は検査の結果や症状から総合的に、慎重に判断して行うものです。 従って最終的に手術と決定されたら迷わずに最良の方法を取るように致しましょう。 |
今まで述べてきたように、腰痛は、程度、原因が色々ありますので、知人がこの方法で治ったから同じ治療をすれば良い、友人がこの療法で治ったから同じものを服用すれば良いというものではありません。それらは、一つの体験談であり参考にしかなりません。
「腰痛はこうすれば治る」という治療法や、薬が色々とありますが、今まで述べたことから、充分に考えてみる必要があります。
(2004.12)
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